飯島一雄さん。御年84歳。
五十石で生きてきた人。
なかま父の林業の師であり、私にとってはこの土地の全てを教えてくれる人。
私たち家族は、敬愛を込めて「師匠」と呼んでいます。
林業を生業としてきたので、このあたりの山のことを知り尽くしている。
植物のこと、動物のこと、天候のこと。
山にまつわるぜ~んぶを、経験を元に教えてくれます。
マジで、師匠の天気予報は(特に山の天気は)、テレビやラジオより当たる。
そんな豊富な知識の中でも、特に師匠が得意とする分野は昆虫です。
山に入って仕事をする傍らで、昆虫を採取しては標本にして、
同定、分類し、報告書や論文として発表するというのがライフワーク。
昆虫研究者としての顔も持っているという、スーパーじいちゃんなのです。
釧路湿原に生息する昆虫研究では右に出る人はいません。
特にトンボやチョウ、ガを得意としていて、
イイジマルリボシヤンマやイイジマキリガ、シベチャキリガなど、
新発見した種はいくつも。
ちなみに、釧路市立博物館には膨大な数の標本が所蔵されています。
標茶町郷土館にある標本も、師匠によるもの。
※釧路市立博物館→http://www.city.kushiro.lg.jp/museum/jyousetsu/1f/0006.html
※標茶郷土館→http://www.nakamano-ie.com/yadoblog/934.html?post_type=yadoblog
師匠の研究部屋。暇さえあればここに座って、
ここ数年は集大成となるはずの最終コレクションを仕上げている。
道東産の全ての昆虫の戸籍を作ってるんだそう。
後ろの黒い引出しには、まだ未分類の標本がびっしり。
***
そいで、今日の午後、
師匠んちで用事ついでにお茶してたときのお話。
最近、私の中でブームのイラクサについて話をしたら…
イラクサへの私の思いはココ→http://www.nakamano-ie.com/nakamablog/1055.html
『戦時中はな、イラクサを刈って出荷してたんだぞ』
なぬっ!? イラクサにまつわる新情報!
『戦争中は、繊維が足りなかったろ? それでイラクサも繊維にしたんだろうな、政府から要請があってな、無償で出してたぞ。じいが青年の頃だったから、昭和初期だな。刈って、束にしてな』
でも師匠自身は、イラクサの繊維を利用したことはないらしい。
もっぱら、食卓に上がっていたんだそうだ。
『昔はよく食べてたぞ。あれはお浸しか胡麻和えだな。一か所でたくさん摘めるし、時間がなくて忙しいときには楽でいいんだ。店で買うより、家の近くのものを有効に利用してな。タンポポもお浸しでよく食べてたぞ。ニリンソウとかな。クレソンは昔はあまり自生してなかったと思うな』
そのうち、やっぱり話は昆虫の方向に。
『イラクサはな、優良な草なんだぞ。クジャクチョウやコヒオドシはな、イラクサに卵を産むんだ。幼虫はイラクサの葉っぱしか食わないんだから。そういう昆虫が、ガにも何種類かいるんだぞ』
ここで何かを思い出した師匠。
『…そういえば、前に新聞の連載で、イラクサについて記事を書いたことがあったぞ。ちょっとまてよ…(ゴソゴソ)』
で、師匠が出してきた記事がこれだった。
北海道新聞の切り抜き。日付は…昭和59年!? 28年も前じゃん!
師匠の素晴らしい記憶力に驚いた。
今まで数えきれない数の文章を寄稿しているだろうに、
ストックの中から迷わずにこの記事を出してきたんだから。
記事では、確かにイラクサについて触れていた。
「~イラクサはクジャクチョウ、コヒオドシ、アカタテハ、アカマダラなどの幼虫の重要な食草でもある。春らんまん…。五月ごろ、イラクサ葉上に黒ぐろとうごめいている毛虫がそれである。~」
そうそう、山菜つながりで、こんな話もしてくれた。
『小遣い稼ぎに、釧路へ出てヤマブドウも売ってたぞ。カゴいっぱいに採って、背負って汽車に乗ってな。茅沼駅まで歩いてな。釧路駅前の青空市場で、これが売れるんだわ。空になったカゴを背負って、帰りに本屋に行くのが楽しみだったな。ヤマブドウを売ったお金で参考書を買うんだ。農業とか林業、昆虫のさ。本屋の後は博物館にも行ってな。館長と話をして帰るんだ。博物館にある昆虫の標本見て、俺のコレクションの方がすごいと思ったよ(笑)
それにしても、じいも青年だったから、カゴにヤマブドウ背負って汽車に乗るのが、恥ずかしくてなぁ。若い女性だっているのに、あれは恥ずかしかったなぁ(笑)』
若い頃は、臭いを気にしてギョウジャニンニクも食べなかったんだそうだ。
「今はもう、バリバリ(食べる)よ」と言って笑ってた。
なぁんだ。ギョウジャニンニクに対して思うところは昔も今も一緒なのね(笑)
拡大鏡を覗きながら、ちらしの裏に書いたメモを読む師匠。
『こないだ去年の記録をここに書いといたんだ。去年はな、ワラビは6月10日すぎに採ってるぞ。コゴミは5月22日だな。でも今年は寒いから、まだかもわかんないな』
来年も再来年も、こうやってお茶すすりながら、
「今年は遅いんでないかい」「いやいや、去年は●月●日でしたよ」なんて
師匠と山菜談義に花を咲かせていたいな。